人生には「もしも」のことが起きる可能性があります。特に一家の大黒柱に万が一のことがあった場合、残された家族の生活は大きく変わります。そんなとき、頼りになるのが「死亡保険」です。
でも、
「死亡保険って、実際いくら必要なの?」 「保険会社に勧められるままに契約してしまっていいの?」 という疑問を持つ人も多いはず。
生命保険の相談を受けていると、3000万で提案されたからとりあえず加入しているという方がとても多いです。この記事では、35歳・年収500万円・妻と子ども2人というモデルケースを使って、「死亡保険はいくら必要か?」を、遺族年金もふまえてわかりやすく解説します。
■ 死亡保険の目的は「残された家族の生活を守ること」
死亡保険は、本人が亡くなったときに残された家族(配偶者や子ども)の生活費・教育費などを補うための保険です。
つまり、保険金の金額設定は「残された家族が経済的に困らないようにするには、いくらあれば安心か?」という視点で考えるべきなのです。
■ モデルケースの基本情報
まずは、今回想定する家族構成を整理しましょう。
- 夫:35歳、会社員、年収500万円
- 妻:専業主婦(またはパート)
- 子ども:5歳と3歳(いずれも未就学)
- 持ち家(住宅ローン返済中・団体信用生命保険加入済)
- 退職予定年齢:65歳
この状況で夫に万が一のことがあった場合、妻と子ども2人が経済的に自立するまでに必要な金額を計算していきます。
■ 死亡後の家族の生活に必要な金額(必要保障額)を計算する
必要保障額とは、「遺族が今後の生活を送るために必要なお金」から「すでに準備されている公的保障(=遺族年金など)」や「貯蓄」などを引いた金額のことです。
この計算は、以下の3ステップで行います。
【ステップ1】家族の生活費を見積もる
まずは、夫の死亡後に必要な「毎月の生活費」を見積もります。
- 一般的に、夫が亡くなると生活費は25〜30%程度減るとされています。
- ここでは夫婦+子2人の家庭の支出が月30万円だったと仮定し、夫の死後は月24万円程度と想定します。
これを年換算すると:
- 年間生活費:24万円 × 12ヶ月 = 288万円
- 子どもが成人するまで:約20年と仮定すると、必要生活費:288万円 × 20年 = 5,760万円
【ステップ2】教育費を見積もる
次に、子ども2人の教育費です。
文部科学省や日本政策金融公庫のデータによると、子ども1人あたりの教育費は以下のように見積もれます。
- 幼稚園〜高校:すべて公立 → 約540万円/人
- 大学(自宅通学、国公立)→ 約500万円/人
よって1人あたり約1,000万円、2人で 2,000万円 を想定します。
【ステップ3】住宅費を確認(団信加入済みの場合)
団体信用生命保険(団信)に加入している場合、住宅ローンは死亡時に完済されます。今回のモデルケースでは団信に加入していると仮定するため、住宅費は考慮しなくてOKです。
■ 必要総額の試算
項目 | 金額 |
---|---|
生活費(20年分) | 約5,760万円 |
教育費(2人分) | 約2,000万円 |
合計 | 7,760万円 |
この金額をそのまま死亡保険で準備しなければならないかというと、実はそうではありません。
■ 公的保障「遺族年金」でカバーされる金額
日本には、働く人が亡くなったときに家族に支給される「遺族年金」があります。
モデルケースのように会社員(厚生年金加入者)の場合、以下の2つの年金を遺族が受け取れます。
【1】遺族基礎年金
- 子どもが18歳になるまで支給
- 年額:約110万円(子2人の場合)
- 子どもが18歳になるまでの15年間受給と仮定 → 110万円 × 15年 = 1,650万円
【2】遺族厚生年金
- 夫の報酬比例部分に基づく年金
- 年額:約60万円程度(年収500万円の場合の目安)
- 妻が中高齢寡婦として65歳まで受給 → 30年近くもらえる可能性あり
ここではざっくりと、
- 遺族厚生年金:年間60万円 × 30年 = 1,800万円 と仮定しましょう。
■ 合計の遺族年金額:約3,450万円
種類 | 金額(目安) |
---|---|
遺族基礎年金 | 約1,650万円 |
遺族厚生年金 | 約1,800万円 |
合計 | 3,450万円 |
■ 保険で準備すべき金額(=必要保障額)
先ほど試算した「家族が必要とする金額:7,760万円」から、「もらえる公的年金:3,450万円」を差し引きます。
- 7,760万円 − 3,450万円 = 4,310万円
この「約4,300万円」が、死亡保険でカバーすべき金額となります。
■ 実際の保険設計のポイント
とはいえ、「一括で4,300万円の保険」をかける必要はありません。
なぜなら、子どもの成長とともに教育費は減り、貯蓄も増えていくからです。そこで、以下のような保険設計がおすすめです。
【1】収入保障保険を活用する
収入保障保険は「毎月●万円を、●歳まで支給」というスタイルの保険です。必要保障額が年々減っていく家庭にぴったりです。
例:
- 65歳まで月15万円受け取れる収入保障保険 → 最大で15万円 × 12ヶ月 × 30年 = 5,400万円(実際の受け取りは期間により減少)
【2】教育費部分だけ定期保険でカバー
教育費にかかる2,000万円程度を、子どもが大学卒業するまでの「20年定期保険」でカバーするのも合理的です。
【3】貯蓄で補える分は保険を減らす
現在の預貯金や、今後の積立予定額によっては、保険の必要額をさらに減らすことも可能です。
■ まとめ:35歳・年収500万円の必要死亡保険額はこう考える!
項目 | 金額 |
---|---|
家族の必要資金(生活費+教育費) | 約7,760万円 |
公的保障(遺族年金) | 約3,450万円 |
保険で準備すべき金額 | 約4,300万円 |
この金額をそのまま保険にするのではなく、「収入保障保険」や「定期保険」などをうまく組み合わせて、必要なときに、必要なだけ備えるのが保険設計のポイントです。
■ 最後に:定期的な見直しも忘れずに!
子どもの成長、貯蓄の増加、住宅ローンの状況などに応じて、必要保障額は変化します。死亡保険は一度入ったら終わりではなく、3〜5年ごとに見直すことが大切です。
保険は、あくまで人生の「リスク管理」の一部。家族の安心を守るために、過不足のない設計を心がけましょう。